岡山地方裁判所 平成5年(行ウ)24号 判決 1995年12月12日
原告
株式会社光地所
右代表者代表取締役
柳光男
右訴訟代理人弁護士
平松掟
同
石井辰彦
同
猪木健二
被告
岡山県知事 長野士郎
右訴訟代理人弁護士
甲元恒也
同
塚本義政
右訴訟復代理人弁護士
佐藤洋子
右指定代理人
熊城浩
同
浅野嘉彦
同
横田幸生
同
駒井俊彦
同
高田修三
理由
一 不許可処分
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 異議申立
請求原因2の事実は当事者間に争いがない。
三 許可基準に対する適否
抗弁のうち、<1>、<2>、<3>の事実は当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によれば、抗弁<1>、<3>の各確定判決の罪となるべき事実のとおりの事実が存在したことが認められる。
ところで、岡山県県土保全条例六条一項は、知事は、開発許可申請に係る開発行為が開発許可基準に適合しないと認めるときは、開発許可をしてはならない旨規定し、開発許可基準として、同項六号に「事業主の資力及び信用、土地の性状等からして当該開発行為の遂行が不可能でないこと」を掲げているが、同条例一条が、その目的として「安全で良好な地域環境を確保することが、地域における現在及び将来の住民の生命、健康及び財産を保護するため、ひいては県土の秩序ある発展を図るため、欠くことのできない条件であることにかんがみ、開発行為の許可基準その他開発の適正化に関し必要な事項を定め、県土の無秩序な開発を防止し、もって県民の福祉に寄与すること」と定めていることや、同条例六条一項六号において「資力」と「信用」が並置されている規定上の体裁等に鑑みると、右「信用」とは、事業の展開において県土の保全に関する県民の信頼を託するに足りる高水準の経済的資質と並ぶ社会的資質の総体を指すものと解され、事業主の代表者らが当該開発許可申請に関して犯罪行為に及ぶような場合には、ことの性質上、基本的な社会常識や法令遵守乃至規範尊重の精神の欠落も甚だしく、詳細且つ厳密な法規範に則り慎重且つ健全な事業運営が要求される開発行為の適法な遂行は到底期待し得ないものというべきであり、このような事業者には、同条例一条の規定する安全で良好な地域環境の確保や秩序ある開発や福祉への寄与等の目的達成を託することはできないものとして、同条例六条一項六号の「信用」は失われ、適正な「当該開発行為の遂行が不可能」となったものというべきであるところ、本件許可申請に係る開発行為の事業者である原告の代表者らが、右許可申請の直接の手続に関して、抗弁<1>のとおり手続自体の公正性を歪めることを目的とする贈賄罪を犯している(原告は同<2>のとおりの無届取引をしたほか、同<3>のとおり原告の取締役らが右許可申請とは無関係ながらも原告の業務の一環としての土地取得に際して公正証書原本不実記載罪等を犯している)ことからすると、原告についても、右同様、同条例六条一項六号の「信用」は失われ、適正な「当該開発行為の遂行が不可能」となったものと認めるのが相当である。
原告は、請求原因に対する認否において、抗弁<1>、<2>、<3>の事実は軽微で形式的な法違反にすぎない旨主張するが、特に同<1>の贈賄行為については本件許可申請に係る開発行為の適法性公平性を直接根幹から揺るがせる行為というべきであり、到底採用できない。また、原告は、本件許可申請に当たって事前協議を経て種々の実績を積み、巨費を投入済みである旨主張するが、これらの事情があるからといって、岡山県県土保全条例六条一項六号の「信用」の許可基準にもかかわらず、被告が右許可申請に対する許可処分を義務付けられる筋合いのものではない。
なお、原告は、抗弁に対する認否第四段のとおり主張するが、その主張自体具体的裏付けに欠け、前提事実にも問題がある。(岡山県土地審査会が事実上官僚によって主導権を握られ、裁量権行使の単なる隠れ蓑にすぎないことは周知の事実とはいえない)ほか、これによって原告の「信用」が回復するわけのものでもないから、採用の限りではない。
他に、原告が「信用」回復のための真摯な努力をした形跡がないことは勿論、その成果が顕現したような形跡もない。
したがって、被告の本件不許可処分は適法である。
四 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 白井俊美 種村好子)